ある日、毛蟹と私はランチに行った。そこは、建物と庭がきれいで結構人気のあるイタリアンのお店だ。
食事が済んで、毛蟹はお手洗いに行った。
毛蟹が手を洗っている時、個室から声が聞こえてきた。
「お~し~り~」
2,3歳くらいの女の子の声だ。
「あら、よく読めたわね。偉いわね。」
お母さんらしい。
二人で一緒に入っているようだ。
ここのトイレはシャワレット付きで、操作ボタンは便器の脇ではなく壁についている。
女の子はきっと、壁の操作ボタンのパネルの前に立ち、ボタンの字を読んでいるのだろう。
女の子はお母さんに褒められて嬉しかったのか、もっと大きな声で読みだした。
「おーしーりー!」
「おーーしーーりーー!」(更に大きな声で)
「もう読まなくていいから。恥ずかしいでしょ。」
お母さんが言う。
でも、集中している3歳児に「恥」などという大人の事情は耳に入らない。
「おーーー!しーーー!りーーー!」
「もう読まなくて・・・・・。キャーーーー!」
シュワーーー!
これは・・・シャワレットの水の音だな・・・・・。
「おーーー!しーーー!りーーー!」
シュワーーー!
「やめてー!」
シュワワーーー!
「おーーー!しーーー!りーーー!」
シュワワワーーー!
「と、止めてーー!」
シュワワワワーーー!
「アアーー!」
毛蟹、もうずっと手を洗い続けている。
うーーーーん。もうすることが無いな・・・。
この親子、どうするのかな。でも、いつまでもここで手を洗っているわけにもいかないし・・・。仕方が無い・・・。
毛蟹は後ろ髪をひかれつつお手洗いを出た。
広いガラス越しに庭が見える。
ああ、今日は晴れていて庭がきれい。
トイレで一人のお母さんがシャワレットと格闘しているというのに、世界はなんて平和なの。
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