ちびマルが退院した日の夜、毛蟹が山から帰ってきた。高校山岳部の引率で行ったのだが、高速が渋滞して帰りが遅くなった。
毛蟹が帰ってくるまでの間に、ちびマルは少しずつ歩き方がしっかりしてきた。といっても下半身がふらついてはいるが。
毛蟹が帰ってきてもちびマルは玄関に迎えに来なかった。私はリビングに入り、ちびマルを抱き上げ、
「ほら、大好きなお姉ちゃんだよ。」
と言って、毛蟹に抱かせた。
ちびマルは黙っておとなしく抱かれた。
「ちびマル・・・」
毛蟹はちびマルをそっと撫でた。
「良かったね。お姉ちゃんにあえて。」
夫と私は言った。
ちびマルはおとなしい。
「もう、毛蟹が帰ってくるまで持たないかと思ったよ。」
と、ちびマルを見ながら私は言った。
「うん。年だしね。今度私が帰ってくるまで元気でいてくれるかな・・・。」
「うん・・・・。お医者さんが、いつどうなるかわからないって言ってたからね・・・。」
毛蟹は黙ってちびマルを撫でていた。
翌朝、毛蟹は大学のあるN市に帰って行った。帰る前、玄関でちびマルを抱いた写真を何枚も夫に撮ってもらっていた。
「じゃあ、元気でね。」
毛蟹はちびマルを撫でた。
その後、ちびマルは少しずつ回復していった。夫に唸るようになったし、食欲が出て、ごみ袋に顔を突っ込んでお菓子の袋を引っ張り出したり、私が買い物から帰るとスーパーの買い物袋に顔を突っ込んで大根をかじったり。
そして事件は起こった。
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