私は予備校に行ったことがない。ま、昔は予備校自体があまりなかったし、浪人すると言うこと自体、一般的ではなかった。
そして時がたち、娘が高三になった。予備校に行くのは当たり前、浪人するのも当たり前という時代である。
去年の秋、娘が代ゼミの講習を受けることになり、講習費を払いに私一人で代ゼミに行った。
会計窓口でお金を払っていると、私の後ろを誰かが通った。ふと、振り返ると、長身のすらりとした男の人の後ろ姿が目に入った。そう、入ったのだ!いや、入らざるを得なかったのだ。その男性の紫色のシャツが!(おそらく)化繊の(絹じゃないよね?)とろりとした感じのドレスシャツが!原宿のたけのこ族か?と言う感じのシャツが!(ああ、ごめんなさい。竹の子族だって。年齢が分かるわね。)
「先生、こちらです。」
と、事務の人がその紫マンを奥に案内する。
先生?・・・・。いやー。びっくりしたわ・・・。
数日後、私は娘に尋ねた。
私 「ねえ。ネットで読んだんだけど、予備校の一般的な評判で、『生徒の駿台、テキストの河合、講師の代ゼミ』っていうんだって。代ゼミって講師がいいの?」
娘はちょっと考えていう。
娘 「講師がいいかどうかはわからないけど・・・・、個性的な人が多いのは確かだね。」
私 「あのね、代ゼミに行った時、紫色のシャツを着た男の人がいたけど、あれ、先生かな。」
娘 「・・・・・それって、Yシャツじゃなくて、服の裏地みたいな生地のシャツ?」
私 「うん。そう。」
娘 「で、フリルついてた?」
私 「後姿だけだったから、フリルがついてたかどうかわからない。」
娘 「ああ、そう。たぶん、あの先生だ。私が見たときなんかね、『何、これ?リオのカーニバル?』っていう感じのシャツだったの。長袖なんだけど、袖の上から下までフリルがひらひらしてて、・・・・えっと・・・・ラテン音楽でマラカス持ってる人、分かる?」
私 「うん。わかる。」
娘 「それがね、真っ赤だったの。もう、燃え上がる情熱、燃え盛る情熱っていう感じの。」
私 「うん・・・・。とにかく、尋常でなく派手だったわけね?」
娘 「うん。本当にそんなの着てたの。」
私 「ホントに?信じられないけど・・・。」
娘 「ホントだよ。」
4月。娘は浪人することになった。
ある日、娘と二人で代ゼミに入学手続きをしに行った。担当の人から、コースの説明を聞いていた時、娘が私を肘で突いた。娘の顔を見ると、目で、「あっち見て」と言っている。
なんだろうと、そちらを見ると・・・・・。
あ!あの紫マン!きょうは真っ赤な、そう、強調して言う、真っっっっ赤なドレスシャツを着ている紫マンが!その胸元にはフリルがひらめいている。
手続きを終えて代ゼミを出た時娘が言った。
「お母さんが前言っていた先生って、あの先生でしょ?」
「うん。」
「あの先生、今日は地味なの着てたね。」
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