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高二の娘との会話 39 ・・・毛蟹娘の育て方・実践編 「登山はいつも危険。だから、娘よ、山へ行け!」
去年、娘の毛蟹は高校に入り、すぐ山岳部に入った。
しかも、伝統のある、かなり強い部である。
運動系の子ではないので、意外な選択だった。
去年の7月、娘が言った。
毛蟹 「ね、お母さん。今度の山行だけど、私、行っていいのかな・・・・。」
あーす 「・・・・?どうして?いつも山行には行ってるじゃない?一度も行っちゃいけないって言ったことないよ?」
毛蟹 「・・・・・今度行くコース、数週間前に遭難事故があったじゃない?あれとまったく同じコースなの。」
あーす 「・・・・・・?・・・・・・ああ、・・・・そういえば・・・・ある高校山岳部の引率の先生が、岩が崩れて亡くなったという、あの事故?」
毛蟹 「うん。そう。」
あーす 「だから?」
毛蟹 「だからね、同じ1年の男子ね、親が危ないから行っちゃいけないって反対してね、行かないの。」
あーす 「ふーん。・・・まあ、そういう人もいるだろうね。」
毛蟹 「だからね、うちも反対するかなって思って。」
あーす 「で、毛蟹は行きたいの?行きたくないの?」
毛蟹 「そりゃ、行きたいけど。」
あーす 「じゃあ、行けば?」
毛蟹 「お母さんは心配じゃないの?」
あーす 「あのさ~、人が死んでない山なんてどこにもないんだよ。奥多摩だって人がたくさん死んでるんだよ。っていうか、学校に行く途中の電車や道路の方がよっぽど死亡率高いじゃない。そんな事言ってたら、山どころか学校にも行けないよ。」
毛蟹 「そうだけどさ・・・・・」
どうやら、毛蟹、母が全然娘の心配をしていないらしい、と不満のようだ。
これはまずい。
これは誤解を招く。きちんと説明しなくては。
あーす 「そりゃ山に行くのは危険だもん。心配しないわけじゃないよ。でもね、心配だから何処にも行かせないって、お母さんは間違ってると思う。」
毛蟹 「・・・・・・・」
あーす 「お母さんはね、親の役目は、子供が一人で生きていけるように育てることだと思ってるの。だから、大人の目がある範囲で、危険だっていう事もたくさん経験しておくべきだと思う。どう準備したら危険を回避できるか、もし危険な目に遭ったら、その時どう対処するか、それって、親が代わりに経験するわけにいかないんだよ。自分で経験して対処方法を身につけなくちゃいけないんだよ。山に行くのはとてもいい経験だと思うよ。いつも危険と隣り合わせで、生死にかかわる危険もある。危険かもしれないと思ったら、すぐに判断しなくちゃいけない。自分のことだけ考えてる訳にいかない。お父さんもお母さんも、そういう経験をさせてやれないもん。」
毛蟹 「・・・・・・・」
あーす 「いつも顧問の先生が、すごく口うるさいって言ってるよね。そう言ってくれる人と一緒に山を経験するって、多分今しかないと思う。すごくありがたい事だと思うの。だから、今できる経験をたくさん積んで欲しい。」
毛蟹 「・・・・・・」
あーす 「心配だから子供を危険なところに行かせないで、自分の傍に置いておくってね、それは単に、親が安心していたいだけだと思うよ。でも、それは本当に子供の為になるとは思えない。親が安心することは、子供の人生とは関係ないよ。お母さんはね、将来毛蟹が一人でもきちんと考えて、危険に対処して生きていける方がずっと安心できる。」
毛蟹 「・・・・・」
あーす 「わかる?」
毛蟹 「うん。」
あーす 「だからね、親が心配するだろうから、自分がしたい事を諦めるなんて、しちゃいけないよ。親が心配するのは勝手にやっていることなんだから、気にしなくていいんだよ。」
毛蟹 「うん。・・・・分かった。・・・・・お母さん、ありがとう。・・・・・・・・」
そして8月、毛蟹はそのコースで山へ行った。
行っている間、すぐ近くの山で遭難事故があった。
うーん。携帯にメールでも送るべきか?
でも別の山だしな。警察からも先生からも連絡ないからな。
せっかく親から離れて羽を伸ばしているのに、下界から
「 大丈夫?怪我してない?お母さん心配よ。」
な~んて重いメールが来たら、ウザいよね。
ま、やめておこう。
そして、水曜日。
映画を見ようとネットでチケットを購入。
あ、もう時間が無!。急いで出なくちゃ!
と、その時!
ちゃらちゃらっらら~らら~・・・・・ 携帯から軽やかな曲が・・・・電話だ。
むーーー!誰だ?こんな時に?
あらら、毛蟹からだ。
どうしたこんな時間に?まだ山の上のはず。
あーす 「あれー?どうしたの?山から電話してきたことなんかないのに。」
毛蟹 「あー。あのさー。」
あーす 「(ちょっとー。何のんびり話してるのよ。)何?怪我でもした?」
毛蟹 「あー。うん。怪我したけど、大したことない。あのさー、先生が家に電話しろって。」
あーす 「なんで?」
毛蟹 「ほら、遭難事故があったじゃない?場所違うけどさ。」
あーす 「ああ、あれね。山違うし、先生からも警察からも事故に遭ったていう連絡ないから、別に心配してなかったよ。」
毛蟹 「・・・・・・・あ、そ。 ・・・・・先生がさ、親が心配してるだろうから、って。」
あーす 「あ、大丈夫。それで、他に?」
毛蟹 「別に。それだけ。」
あーす 「あ、そう。あのさ、 映画見に行くから、もう出ないといけないの。だから、切っていい?」
毛蟹 「・・・・何見るの?」
あーす 「スカイクロラ」
毛蟹 「それ、もう見たんじゃない?」
あーす 「見に行ったら、地震があって雷落ちて停電になって、上映中止になったの。あの、ホントに間に合わないから。切るよ。じゃあね、楽しんできてね。」
切ろうとする携帯から毛蟹の声が聞こえてくる・・・・。
毛蟹 「あのさー、うちの親ったらさ、これから映画見に行くから切るって・・・・、まったくさー・・・・・」
数日後、毛蟹が山から帰ってきた。
毛蟹に聞いてみた。
あーす 「あのさ、遭難事故があって、友達には、家から電話とかメールとか来てたの?」
毛蟹 「来てたよ。 大丈夫?って。」
あーす 「お母さんは、毛蟹は大丈夫だって信じてたから。それにウザいでしょ?せっかく楽しんでるのに下界から親のメールが来るって。」
毛蟹 「まあ、そうだけどさ。」
先週、北海道の大雪山系で遭難死亡事故があった。
ニュースを見て娘が言った。
毛蟹 「そりゃ死ぬよ。無謀だよ。1日10時間歩くなんて。プロだって1日6時間が限度だって言うもん。勿論重装備だけどさ。私達だって基本的に4時間から6時間しか歩かないよ。しかも雨で強風でしょ。先生がいつも言ってるもん。『引き返す勇気』って。」
あーす 「パーティーの人たちがバラバラになって遭難するってあるの?」
毛蟹 「考えられないよ。私達なんて多いと40人くらいいるじゃない?人数多いと大変だけどさ、誰かが脱落しそうになったら、すぐに伝言飛ばすもん。強風だったらザイル使うもん。あの人たち、ザイル持っていかなかったのかな。ガイドが持っていくはずだけどね。」
たった1年3か月だけれど、毛蟹は山での危険は一応考えられるようになった。
ま、この1年余りの間、毎回擦り傷切り傷。無傷で帰ってきたことはほとんどないが。おかげで両手両足にそれぞれの山行の時の傷が残った。
毛蟹 「これは夏山。これは秋山。こっちは梓川。こっちはガレ場。」
毛蟹よ、まあ、青春とは傷つくものさ。
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