今年のアメリカの野球の頂上決戦:ワールドシリーズ。ドジャースがブルージェイズを破り優勝決めた。
MVPは山本由伸投手。彼は現代野球ではありえない献身的な働きをし、ブルージェイズ打線に決定的な得点を取らせなかった。今回のワールドシリーズは誰が見てもMVPは山本であった。日本人として大変誇りに思う。
さて、英語の話題。
彼はあるときインタビューで「
何としても負けるわけにはいかないので…」と言った。
これを私が「翻訳」するなら
"Because we mustn't lose the game at all costs,"
という英文を作るだろう。私は本人の意図をできるだけ忠実に英訳したいと思うからだ。
一方、この時の山本専属の通訳の園田芳大さんはこれを、こう表現した。
Losing isn't an option.
(負けは選択肢にない)
これが英作文の問題なら大減点ものだろう。
しかし、この表現がアメリカで大変ウケたのである。
映画の主人公が言いそうな実にかっこいいセリフではないか。
専門のTシャツまでできた。
ドジャースのキケ・ヘルナンデス選手はこれを着て練習をしていた。
実際に売られている。
https://eastbluefashion.com/products/dodgers-yoshinobu-ya...
園田芳大さんは元々通訳ではなく、アメリカで映画関連会社に就職し、20年以上照明技術者として活躍していたらしい。ダメもとで山本選手の通訳募集の知らせに連絡したら、受かってしまったという、
私は、園田さんは元々映画の字幕翻訳のお仕事でもしていたのかと思った。しかし違った。ただ映画と関係するお仕事をしていた。そのせいだろうか?
通訳は即応性が求められる。笑える表現ではないが、ドスの効いた名訳ではなかろうか。
---
ついでにもう1つ、メジャーリーグでの通訳の話をしたい。
大谷選手がナショナルチームチャンピオンシップゲームでMVPを取ったときのインタビュー。
大谷選手はこう言った。
「
(ロサンゼルスと日本)皆さん、今日は美味しいお酒を飲んでください」
と言ったのだ。
これをドジャースの通訳のアイアトンさんは、こう表現した。
I hope everybody in LA, in Japan, and all over the world, could enjoy a really good sake.
(私は希望しています、ロサンゼルスと日本と世界中の皆さんが本当に美味しい
日本酒を楽しめることを)
お酒を alcohol と言わず、
sake(
日本酒)と言った。ここにアイアトンさんのセンスの良さを感じた。
sake は十分英語である。ただし sake の意味は「日本酒」である。大谷選手は日本酒という意味で「お酒を飲んでください」と言ったわけではないので、これも英作文なら減点対象だろう。でも、これは誤訳にはならない。だって大谷選手は実際に「酒」と言ったのだから。
通訳のアイアトンさんのこの英語は、現地で爆笑されたのである。大谷がさりげなく日本をアピールしたようにアイアトンさんは見せたのである。
====
リスニング苦手な私がたとえリスニングが大得意になり、その結果通訳者になったとしても、2人のような名訳を作れる自信は全くない。